Date: Sat, 10 Aug 2002 11:15:48 +0900 Subject: [janl:00393] 【JANL メールマガジン 2002-08-10】 To: janl@res.kutc.kansai-u.ac.jp JANLメールマガジン ================================== 2002/08/10 配信解除希望はこちらへ  janl-staff@res.kutc.kansai-u.ac.jp -------------------------------------------------------------------- □ 目次 [JANLスクランブル] ● 仮想現実感の技術   (江澤義典・関西大学) [JANL会員から] ● 学生レポートの著作権問題 (安藤倬二・京都造形芸術大学編入生) ==================================================================== [JANLスクランブル] ● 仮想現実感の技術   (江澤義典・関西大学) 仮想現実感を巧みに表現する技術の進展について考えてみた. 仮想現実感という言葉は Virtual Reality の訳語として使われる ことが多いのであるが,コンピュータ映像 (Computer Graphics) 技術の普及とともにSF映画やコンピュータゲームだけでなく,遠 隔医療などの実用技術としても脚光を浴びている.美容整形の分野 でもおおもてらしい. 実際に体験できる現象が「現実」であるが,様々な制約によって私 たちには体験が困難なことであっても,仮想的な体験感を得ようと いう工夫が「仮想現実感の技術」である. 他者から得られる情報によって,あたかも自分で体験したかのよう に学習することも「一種の仮想体験」と考えられる.たとえば,親 の体験を子どもに「話す」ことで,仮想的ではあるが,親が体験し た事実を学ぶことができる.この場合に,「ことば」はそのような 仮想体験感を伝達する基本的な技術といえることに気づく.親の世 代から子どもの世代に,様々な体験が「ことば」で伝えられ,危険 な実体験に遭遇することなく,それらを回避できるという効用など, 文化の継承につながる技術だといえる. IT革命の進展でも議論した(本メールマガジン創刊号)が,「こ とば」から「文字」さらには「印刷術」をへて「電子通信技術」そ して「コンピュータ技術」にいたる技術革命の進展とともに,「仮 想現実感の技術」も進展していることになる. 実際,「文字」による実体験の記述は,「報告書」や「日記」だけ ではない.「紀行文」を読むことによって仮想旅行の楽しみが享受 できるのである.そして,「印刷術」の発明により,このような文 字による仮想現実感を得る方法は多くの市民にも普及したといえる. また,イラストや写真を添えて「文字情報」よりも格段に多くの情 報を視覚的に補う方法が工夫され,仮想現実感はさらに向上した. しかし,これらの仮想現実感を得るには読者の「想像力」が必須で あり,さまざまな文章の行間を読む修練が要請された. ところが,テレビやビデオなどの動画による表現が登場したとき, われわれは実体験と区別のつき難い疑似体験が可能な視聴覚表現技 術を手にしたといえる.そこでは,圧倒的な臨場感のある映像表現 を読み解くために,テレビやビデオの映像を批判的に視聴する思考 訓練が望まれた. 実際,余りにも多くの擬似的な現象を日常的に体験することになっ た人々には,「テレビ映像」によって報道される「遠隔地での戦争」 をみたとき,パソコンゲームの画像との類似点には気付いても,現 実の戦争被害者の悲惨さに気付かない.これは,思考停止に伴う想 像力の欠如であり,このような「現実感の喪失」は極めて深刻な事 態である. 最近の「コンピュータ技術」を応用した「仮想現実感の技術」を用 いた映像表現では,実際に体験できるのと文字通りに寸分違わない ような仮想現実感も得られる.ジェット飛行機のパイロット訓練で はCG技術が必須のものになってきている.今後は,医療技術者の 訓練用に「人体解剖実習」を仮想技術で仮想体験させるようになる のかもしれない. しかし,「仮想体験」はあくまでも「仮想」のものであり,現実に 体験する現象との相違を,常に意識して深く考える必要があること には,多くの現場で異論がないと思われる. -------------------------------------------------------------------- [JANL会員から] ● 学生レポートの著作権問題 (安藤倬二・京都造形芸術大学編入生) 大学では、教員が出題した課題に対して学生がレポート提出したと して、その提出されたレポートを担当教員が講評し添削して学生に フィードバックするシステムとなっているのが一般的です。 さて、その最終結果である「評価添削付のレポート」を他の学生に も勉学の指針となるように学内Webで自主的に公開したいと学生 が申し出た。ところが評価添削付きのレポートの著作権は何処にあ るのかについて双方の見解に微妙な解釈の差が出てきたのである。 一方の教員は「課題を発案し、そのレポートを添削した」のは教員 としての仕事として行っているのだから当然その著作権は教員およ びその大学に帰属すると考えた。これは従来から習慣的にも妥当な ことと思われた。 皆さまは、どのように、考えられるでしょうか? ここで、前回のメールマガジンで紹介された下記の本が役立ちまし た. サラ・バーズ著:「IT社会の法と倫理」 ピアソンエデュケーション社,2002年4月発行 この本の第5章では「知的財産の保護」に関する議論が丁寧に紹介 されており、この問題を実際に学生間で議論するとき、大いに役に たったのでした. 課題に対するレポートに、新しい創造的部分がある場合には当然そ の作品には著作権の考え方が適用され、その著作物の部分引用のあ る評論にはその著作物の創造に貢献するいわゆる公正利用の原則が 適用される。 (参照:前掲書p.150) 従来は、担当教員の教育権が過大に主張された結果、個々の学生に 帰属する権利が無視されることも散見されるのは一般常識となって いたかもしれませんが、これからは、学生達も情報社会の様々な権 利関係を総合的に学んでいくことが望まれます。 その後、法律関係の方から次のような御示唆を頂きました。 「一般的には,学生レポート自体については,慣習的に著作権を  放棄しているとの解釈が実際的かもしれない.しかし,それは  紙媒体によるレポートを念頭においた場合であり,電磁媒体に  よるレポートをWebで公開するような場合には,著作権とい  うよりも個人情報のディジタル流出などが争点になり得るので  はないでしょうか.」 色々と具体的な考察が可能な事例だと感じ、話題提供させて頂きま した。 -------------------------------------------------------------------- [編集後記] 3ヶ月ほどの空白期間がありましたが,メールマガジンを再開いたします. 読者の皆さまからのご指摘や投稿をお待ちしています.新しい記事の投稿や 今回の記事に対する批判・コメントなど大歓迎です.(義) ==================================================================== [JANLメールマガジン] バックナンバーの閲覧は、以下のサイトからご自身でお願いします。 http://www.janl.net/magazine/ 編集:JANL 運営委員会 発行:日本情報倫理協会事務局 (〒569-1095 高槻市霊仙寺町2−1−1 関西大学総合情報学部 江澤研究室内) 情報倫理に関するご意見や転載を希望する場合はJANL事務局にご連絡下さい。 MM 配信解除の希望もこちらへ janl-staff@res.kutc.kansai-u.ac.jp