Subject: [janl.391] 【 JANLメールマガジン 2002/04/24 】 Date: Fri, 26 Apr 2002 18:50:21 +0900 JANLメールマガジン ================================== 2002/04/24 配信解除希望はこちらへ  janl-staff@cs.kutc.kansai-u.ac.jp -------------------------------------------------------------------- □ 目次 [JANLスクランブル] ● "A Gift of Fire" の訳本完成   (江澤義典・関西大学) [JANL役員から] ● 情報倫理と情報法 (田中規久雄・大阪大学) ==================================================================== ● "A Gift of Fire" の訳本完成   (江澤義典・関西大学) 日本情報倫理協会のメールマガジンを昨年9月に創刊してから,半年が 経過し,今月号は第8号になります. 創刊号でJANL役員である田中さんから紹介があった,サラ・バーズ博士 の著書"A Gift of Fire"を本協会の役員やメンバーが中心となって邦訳 することが出来ました.ピアソン・エデュケーション社から今月の下旬 に出版されることになっています. 『IT社会の法と倫理』 サラ・バーズ著 日本情報倫理協会訳 B5変 約400頁 ISBN4-89471-554-6    http://www.pearsoned.co.jp/washo/nbindex_apr.html 本書の内容は大学の一般教育課程から大学院修士課程ぐらいまで,それ も情報系のみならず人文系や社会系の学生や研究者にも役立つ,幅の広さ と柔軟性が特徴的です.また,概ね,高校に新設された「情報科」の教職 科目である「情報社会及び情報倫理」や「情報と職業」に対応するものと いえます. 訳書の目次を紹介します. 第1章 贈り物を開けてみよう 第2章 情報とプライバシー 第3章 盗聴と暗号 第4章 コンピュータは信頼できるのか? 第5章 ソフトウェア,その他の知的財産の保護 第6章 憲法にかかわる諸問題 第7章 コンピュータ犯罪 第8章 コンピュータと労働 第9章 より広範な諸問題:コンピュータの与えるインパクトとそのコントロール 第10章 専門家の倫理および責任について 各章のタイトルからも類推できるように,本書は,コンピュータ技術の側面 のみならず法的な側面からの議論もしっかりとしています.そこで,邦訳プ ロジェクトでは,情報技術の専門家と法的議論の専門家との合同チームを編 成しました. 邦訳にあたって,日本国内の大学において「情報倫理」の授業が必須にな ってきていることを考慮して,大学の教科書として使いやすいものを目指 しました.ぜひ,ご一読下さい. -------------------------------------------------------------------- [JANL役員から] ● 情報倫理と情報法 (田中規久雄・大阪大学)  昨年(平成13年)は、私にしては珍しく海外出張の多い年だった。  法学教育の情報化、ODR(Online ADR; オンラインによる紛争解決)の視察調 査のためマサチューセッツとカリフォルニア、法情報データベースを中心とした 国際シンポジウムの参加と、アジア法整備支援協力の要請のためにシドニーに、 情報科学教育における情報法分野の構成についての発表のためソウルにいった。  ここでは、ソウルでの 'The 9th International Conference on Computer in Education, Association for Advancement of Computing in Education' (ICCE2001)に関して報告する。  この発表は、この度目出度く発行された、サラバーズ著・日本情報倫理協会訳 「IT社会の法と倫理」ピアソンエデュケーション、で共訳者となった熊本大学の 福島力洋氏との共同でおこなった。  趣旨を簡単に述べると、「情報法学は広い射程を持つが、そのコアな部分は電 子情報固有の性質によって生起する問題によって構成されるべきであり、公法、 私法といった六法体系から問題を見ていくのは、情報科学教育としてはよくな い。」として、情報法の講学の簡単なモデルを提案したものである。  ここではその中身より、その前提を述べてみたい。  実は法というものは一般的に、それほどモラルの高い人間を想定しない。むし ろ、モラルの低い人間に法を犯させず、社会的な統合を実現するのが良い法で あって、高潔な人間でないと遵守できない法というのは悪法であるというのが、 皮肉な事に民主社会の「倫理」である。また、諸刃の剣とよく言われるように、 法は、市民の行動を規制するが、反面、権力や社会的な事実上の強者の恣意専断 を防ぐ側面もある。まさに「形式は恣意の仇敵、自由の双生児」という、ある法 学者の言葉がこのことを象徴的に述べている。そしてそれが実効性があるのは、 法規範の場合、最終的には強制力が働くからである。  一方、倫理規範は、法を超えて市民の自由を規制する。違法ではないが、倫理 的に非難される行為はいくらでもある。典型は戦時における敵兵の殺人であろ う。しかし、倫理規範には本来強制力がない。というより、強制されないところ に高度の倫理規範が実現されることが価値をもつのである。それゆえ国会で可決 されたかどうかという形式よりも、強制力がある規範を「法」といい、ないもの を「倫理、道徳」という、という風に機能的に捉えた方が現実をよく反映してい るであろう。そこで気になるのが、倫理の名のもとに法を滑り込ませることであ る。  先述の著書の日本語版の序文でサラ先生は、業界が市民の正当な利益まで圧迫 しようとしていること、政府が公安の名のもとに市民を監視することに警鐘を鳴 らしている。ここで一般に倫理が法より厳しい規範であることが多いということ に思い至るなら、倫理教育の強化が自由で活力ある社会への足枷となる事も考え られる。かつて昭和30年代に、高等学校に「倫理」という科目が新設された際 に、「修身の復活か!」と恐れられたが、関係者の努力や、一方で「政治経済」 という科目での権利教育がなされたことでバランスがとられた。  遠山文科相も、初等中等の情報教育では「ルールやマナーを教えたい」と述べ ているが、法の中核概念がルールであり、道徳の中核概念がマナーであるとすれ ば、これは情報倫理のみならず情報法の教育(情報受益者の権利教育)も必要だ ということと等価な発言である。マナーは朱子学に陥りやすいが、ルールは強者 の側にも適用されるのである。  情報倫理教育のみで、情報権利教育のない情報(科学)教育が行われないこと を期待したい。 -------------------------------------------------------------------- [編集後記] 読者の皆さまからのご指摘や投稿をお待ちしています.新しい記事の投稿や 今回の記事に対する批判・コメントなど大歓迎です.(義) ==================================================================== [JANLメールマガジン] バックナンバーの閲覧は、以下のサイトからご自身でお願いします。 http://www.janl.net/magazine/ 編集:JANL 運営委員会 発行:日本情報倫理協会事務局 (〒569-1095 高槻市霊仙寺町2−1−1 関西大学総合情報学部 江澤研究室内) 情報倫理に関するご意見や転載を希望する場合はJANL事務局にご連絡下さい。 MM配信解除の希望もこちらへ  janl-staff@cs.kutc.kansai-u.ac.jp