To: Subject: [janl.376] 【JANLメールマガジン】2001/11/01 Date: Fri, 02 Nov 2001 13:00:13 +0900 JANLメールマガジン ================================== 2001/11/01 配信解除希望はこちらへ  janl-staff@cs.kutc.kansai-u.ac.jp -------------------------------------------------------------------- □ 目次 [JANLスクランブル] ● IT革命と学校教育   (江澤義典・関西大学/日本情報倫理協会会長) [JANL役員から] ● 私情協の第15回大会と情報倫理教育研究集会に参加して   (中條道雄・関西学院大学) [JANLの動き] ● 平成13年度文部科学省情報処理教育研究集会に参加して   (田中規久雄・大阪大学) ==================================================================== [JANLスクランブル] ● IT革命と学校教育 関西大学の江澤義典です. IT革命の歴史を簡単に振り返って,技術の発展とともに倫理もその都度 拡張されてきたことを確認しました. これらの技術は社会の様々なところで活用されますので,教育の現場でも 様々な情報技術を活用することが要請されています. 第0次IT革命:言葉(音声言語)を使うことで多様な表現が可能になった 為に個々人の経験が様々な言葉で伝達され,色々な集団社会における情報 共有が可能になったのです. 学校教育では,教室における教員の話しを聞き取る事が基礎になります. また,生徒が教員と対話したり,生徒たち同士で会話を発展させ一種の コミュニティを構築することが大切になります. 第1次IT革命:文字による記録の利活用です.文字を使って,様々な経験を 記録することにより,音声言語では時間の経過と伴に曖昧になりがちだっ た情報も,時間の経過に依存しない文書として,伝達可能になったのです. 学校教育でも識字教育が重視されています.平仮名や片仮名から初めて, 漢字やローマ字まで多彩な文字を学びます.また,英語などの外国語を学 ぶ場合もアルファベットの学習は欠かせません. 第2次IT革命:印刷術の発明であり,「本」や「雑誌」さらには「新聞」 などの印刷メディア産業の起源になりました. 学校教育では教科書を利用するだけでなく,補助教材である辞書・事典・ 参考書の活用も重要です.さらに,新聞や学術雑誌を利用した教育も試み られています.とくに,複数の新聞と使って同一ニュースを比較すること で,「ニュースの背景を読み解く」ことの大切さが指摘されています. 第3次IT革命:ラジオやテレビ・ビデオなどの情報メディア産業がうまれ ました.ラジオやテレビは,ニュース伝達メディアとしては,その速報性が 画期的であり,事件現場から中継されるニュースは現代社会には不可欠の ものとなっています.衛星電波を使って戦争までが映像中継される. そして,学校教育にもラジオやテレビが活用されるようになっています. 教育番組として放送される内容は多くの番組制作スタッフによる編集作業を 経ているので好評です. しかし,ビデオに記録した映像は恣意的なデータ加工が可能なので,映像 データや音響データを「批判的に読み解く」教育が課題になっています. 第4次IT革命:コンピュータやインターネットを利用できる環境が飛躍的に 整ってきています.そこでは,電子の速さも重要ですが,デジタル方式の コンピュータによる超精密自動制御技術が鍵になります. 学校教育の現場でもコンピュータやインターネットが活用できる環境の整 備が文部科学省の主導で進められています. このようにITが進展すると,学校教育現場においても第0次から第3次IT革命 までの情報技術の全てを利活用する教育が求められるのは当然なのですが, それに加えて第4次ITを応用した『e-ラーニング』が注目されているのです. -------------------------------------------------------------------- [JANL役員から] ● 私情協の第15回大会と情報倫理教育研究集会に参加して   (中條道雄・関西学院大学)  (社)私立大学情報教育協会(以下「私情協」)の第15回大会が9月 11日から13日の3日間にわたって東京のアルカディア市ヶ谷で開催さ れました。本年は例年秋に行われるこの大会に続いて翌日の14日に「情 報倫理教育研究集会」が初めて開催されました。私はこの両方の会合に参 加する機会を与えられましたので、私情協の活動と私が参加した両会合に ついて特に「情報倫理教育」の視点から述べさせていただきます。  私情協は平成4年6月1日に文部省の外郭団体として設立発足した公益 法人で、私立の大学、短期大学、高等専門学校における情報教育の振興・ 充実を図るために設立された団体です。毎年秋に行われる大会をはじめ、 各種の研究会・講習会などを開催しています。出版の分野では機関誌とし て「大学教育と情報」(平成13年以前は「私情協ジャーナル」)を年4 回発行しているほか、各種の資料・報告書も刊行しています。情報教育の 広範な領域に渡る多数の委員会が設けられていますが、その一つとして 「情報倫理教育振興研究委員会」が活動を行っています。私情協は情報倫 理教育の重要性に早くから着目し、調査・研究活動を行ってきました。 その具体的な成果としていくつかの出版物が刊行されましたが、1995 年刊行の「情報倫理教育概論」は私情協のWeb 上で自由に閲覧することが できます(http://www.shijokyo.or.jp/LINK/report/rinri/mokuji.htm)。 さらに1999年にはインターネットの急速な進展と普及に伴って「イン ターネットと情報倫理」が刊行されました。これについては目次のみが公 開されています。  さて、本年も大会は3日間にわたって開催されました。初日はITと教 育に関わるいくつかの講演と、私情協の新しい取り組みである「サイバー・ キャンパス・コンソーシアム」の説明およびこれに関連して「ハーバード 大学、MITにおけるIT戦略」の紹介が行われました。二日目は事例発 表会で、本年は情報教育の広い分野にわたって42件の実践発表が行われ ました。私も「ネットワーク時代に対応した情報倫理教育の試み」として 関西学院大学総合政策学部で行っている“Project Based Learning"を報告 させていただきました。この他に情報倫理を取り上げた発表としては立正 大学の山下先生による「環境システム学科新入生における大学生の情報倫 理意識について」のみでしたが、「情報リテラシー教育」関連のいくつか では情報倫理・情報セキュリティに言及された発表がありました。  「情報倫理教育研究集会」は本年初めて開催されたもので、午前は ・ 開会、趣旨説明 ・ 情報倫理に関する授業等の実践事例の紹介 ・ ネットワーク利用における保護と規制―情報倫理に対する大学の   取り組み 昼食休憩を挟んで午後は「望ましい情報倫理教育のあり方について」の全 体討議が ・ 発題提起 ・ 説明・提言 ・ 討議 の順で行われました。 この集会は「情報倫理教育」という限られた分野に関するもので今年初開 催であるにもかかわらず、当日配布された資料冊子に掲載されている参加 者名簿では108人が上げられていました。実際には事前申し込みなしで 参加された方もおられたようで参加者の数はもっと多く感じました。  午前・午後のセッションを通じて発表・質疑とも熱気のこもったもので、 参加者が「情報倫理教育」について多大な関心と意欲を持っておられるこ とが感じられました。特に午後の全体討議では、午前のセッションを踏ま えて参加者に午後の討議で取り上げてもらいたい質問・提案を事前に準備 された用紙に記入して提出しておき、それを司会者が適宜OHPで提示し ながら議論を進める形が議論の活性化を導き、話題が広い分野にわたって 活発に展開されました。この研究会に出席して強く感じたことは、「情報 倫理教育」をどう捉えるか、どう展開するかについては、参加者の間でか なり認識・意識の広がりがあることでした。これは、参加者が関わってい る教育の現場の環境(システム・ネットワーク、カリキュラム、学生、学 部など)が広範にわたっていることを考えると当然ともいえるでしょう。 この意味でも、今後このような研究会が多くの参加者を得て定期的に開催 され、率直でオープンな議論を深めていくことが「情報倫理教育」の推進 と深化にむけて必要であると感じました。  私情協では、情報倫理教育を実践する教職員がネットワークを通して連 携するための拠点として、私情協のWebサイトに「サイバー情報倫理教 育センター」を構築し、担当教職員によるコミュニケーションの促進、教 材の相互利用・共同開発の促進、大学間連携授業の仲介、教育素材アーカ イブの提供などの支援を行うことになっています。将来的にはこのような 試みが私立大学だけでなく、国公立大学・社会教育機関も含めた連帯とし て展開されることを期待するのは私だけでしょうか? -------------------------------------------------------------------- [JANLの動き] ● 平成13年度文部科学省情報処理教育研究集会に参加して   (田中規久雄・大阪大学)  この研究会は文科省主催でもう15年ほどの歴史をもっている。いわゆる「一般 情報(処理)教育」に関する学会の役割を果たしている。  今年は当番大学が和歌山大学で,10月12,13日にあった。  基調講演は,大阪大学基礎工学研究科の宮原秀夫先生,特別講演が和歌山大学 システム工学部の河原英紀先生で,宮原先生は10年先を考えた明確なインフラ政 策の欠落を指摘され,河原先生は様々な人間の脳の情報処理の特質について分析 されておられたのが印象的であった。  分科会報告は総数200弱あったそうであるが,そのうち「情報倫理」の言葉を 含むものは7つであった。もっとも「情報教育」,「情報リテラシー」の語を含 む報告中に情報倫理が含まれている場合もあるし,情報法規や,個人情報,知的 財産権といった関連個別テーマのものを含めばこの数は倍するものと思われる。  私は「大学新入生の情報倫理レディネスとカリキュラムの検討」というテーマ で報告させていただいた。  これは,大阪大学の新入生中約120名に対する知識調査を元に,情報倫理教育 内容との関わりを明らかにしようとするものであった。  結論だけいうと,知的財産権,殊に著作権に関しては特に意識的な教育が必要 であること,情報倫理関連知識獲得には情報技術の初歩的教育も並行して行われ る方が良いこと(この点については,同旨の報告が早稲田大のグループからあっ た。「情報倫理教育におけるネットワーク技術講習の必要性」),インターネッ ト利用歴が長くなっても理解が伸びにくい領域があり,それらはいわゆる継続的 な技能教育,リテラシー教育などで補強していく必要があるということである。  この報告はあくまで「知識」を対象にしていたのだが,「知識」と「態度」を 直交してとらえることはなかなか難しいのだということが質問などを聞いていて わかった。  しかし,数学者コンドルセがかつて述べたように,近代公教育はあくまで「知 識」面からアプローチすべきであり,「知識教育」抜きで「態度」を変容させよ うとするのは,教育ではなく人民「教化・洗脳(indoctrination)」であることに 再び思いを馳せるべきであろう。今のような時代は,結果オーライの声高な主張 が跋扈するのであるが,それゆえにこそ,再び我々が大きな過ちを犯すことのな いよう原点を見つめなおしたいものだと思う。その意味で「倫理なき情報倫理 論」に陥ることのないように自戒したい。 -------------------------------------------------------------------- [編集後記] 今月号は配信が少し遅れましたが, ご感想などを是非, 事務局宛にお知らせ 下さい. 読者の皆さまからのご指摘や投稿をお待ちしています.新しい記事の投稿や 今回の記事に対する批判・コメントなど大歓迎です.(義) ==================================================================== [JANLメールマガジン] バックナンバーの閲覧は、以下のホームページからご自身でお願いします。 http://www.janl.net/magazine/ 編集:JANL 運営委員会 発行:日本情報倫理協会事務局 (〒569-1095 高槻市霊仙寺町2−1−1関西大学総合情報学部江澤研究室内) 情報倫理に関するご意見や転載を希望する場合はJANL事務局にご連絡下さい。 MM配信解除の希望もこちらへ  janl-staff@cs.kutc.kansai-u.ac.jp